掛け違えた歯車

2012年1月14日
※過去記事


頑固爺さん


ある頑固なじいさまがいた
おそらく仕事人間だったのだろう
80歳になっても
「人様の世話にはなりたくない」
と言っていた


彼には妻と2人の息子がいた
妻は10年前に他界
彼が亡くなってから発覚したのが
長男は離婚後飛び降り自殺を図って
植物状態で入院中
次男は高度の障がい者で
施設に入っていた
彼は親戚の付き合いもなかったようで
近所の人が見守っていた


真冬の寒い日に道路で倒れていて
救急車で運ばれて入院したこともある
よれよれのズボンをはいて
ひげは伸ばし放題で
下着のまま外に出ることもあった
家ではすっぽんぽんのこともあった
何年もお風呂に入っていないようで
夏はひどく臭っていた


せめてお風呂に入らせてあげたい
ご飯もコンビニのものだけでなく
栄養のあるものを作ってあげたい
お部屋や庭の掃除も手伝ってあげたいと
彼を見ていた人は思っていた


しかし訪問していくら声をかけても
言うことは同じ
「自分でするから」「間に合ってます」


近所の人たちが見守るなか
彼は集金に来た新聞屋さんの通報で
死んでいるのが発見された
あと2日もすれば
新年を迎えるという日に


寒くなかったかな
苦しくななかったのかな
寂しくはなかったのかな


彼の死を知った近所の人たちは
そろって泣いていた


何に対する涙だったのか
彼の人生そのものへの悲しさ?
彼の長男への同情?
彼の次男へのあわれみ?


一生懸命生きてきて
その過程には
たくさんの幸せもあったはず
でも、この人生の最期に
彼は何を思ったのだろうか


歩くこともままならず
つぶれた靴を履いて
伸び放題の仙人のような髭に
鼻水をたらしながら
ぜーぜー言いながら
歩いている彼の姿を何度も見た


子どもは親を選べないというけれど
親だって子どもを選ぶことはでできない


何が大切なのか
また頑固爺さんに教わった気がする
ありがとう、ガンコじいさん
私はあなたのこと、忘れないから






2012年1月28日


朝の出来事


出勤した朝
いつもと違う病棟の空気
何かあったの?


重症患者の個室の廊下で
ショートカットの
高校生くらいの女の子と
そのお父さんらしき男性が
お互い違う方を見ながら
うつむいて立っている


部屋の女性はお母さん?
昨日夜中に救急車で運ばれたらしい


43歳、女性
スナックの経営者。
ホテルで男性とセックスの最中に
意識消失
同行してきたのは夫以外の男性
病名:くも膜下出血
淡々と書かれたカルテ


女の子もお父さんも
彼女の病室に入らない


数日後、女性は死んだ


あの女の子は
あれからどうしているのだろうか
幸せでいてほしいと、心から思う







幸せってなんだろう♡

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